アルツハイマー型のような進行性の認知症は、時間が経てば経つほど症状は悪化していきますが、いまだにその原因や仕組みについては十分な解明がなされていないため、病気そのものを根本的に治す治療法(治療薬)は確立されていないのが現状です。
しかし、認知症が進行性の脳疾患である以上、そのまま放置していると、どんどん悪化してしまうため、患者本人やその家族を含めた周辺の介護者に、より大きな負担を強いることにもなりかねず、あまり賢い選択とはいえません。
現在、根本的な治療は難しいものの、初期段階にある軽度の認知症であれば、症状の進行を遅らせる(あるいは緩和する)ことのできる治療薬は開発されているので、少しでも早期発見に努め、いかに症状の軽いうちに治療に専念することができるかが重要な鍵を握ってきます。
長谷川式スケールとは、聖マリアンナ医科大名誉教授の長谷川和夫氏が、1974年に考案した知能評価テストのことで、その正式名称は『長谷川式簡易知能評価スケール【HDS-R】』と言います。
このテストは、主に記憶力を中心とした認知機能障害の有無を大まかに知ることを目的とした検査方法であり、MMSE検査同様、実際の医療現場で広く使われています。
ちなみに、数年前ヒットした映画『明日の記憶』で、精神科医役の及川光博さんが渡辺謙さん扮する認知症患者に対して実施していたペーパーテストは、この長谷川式スケールを使っています。
長谷川式スケールが一定の評価を得ている理由は、特に大がかりな機材を必要とせず、短時間(10〜20分程度)で実施できること、また認知症の有無が客観的に判断できるような質問項目で構成されている点にあります。
そのため、医師でない一般の方でも長谷川式スケールを使うことで、ある程度、客観的に認知症かどうかの判断をすることができるのが特徴です。
ただし、長谷川式スケールはあくまで簡易テストなので、被験者の点数が低いからと言って必ずしも認知症であると断定することは出来ません。
※ とはいえ、採点が20点以下だと認知症の疑いが強いと言われているので、極端に点数が低い場合は、一度、専門医に見ていただいた方がよさそうです。
また、下記に示した長谷川式スケールの質問項目を見ていただければ分かるとおり、質問自体がどれも大の大人に対して行うものではないため、中には馬鹿にされているような気持ちになる被験者もいるようで、その辺の理解(協力)が得られるかどうかが検査をする上で重要なポイントになってきます。
最高得点は30点満点であり、20点以下を認知症の疑い、21点以上を正常と判定した場合に最も高い弁別性を示す。なお、HDS-Rは認知症のスクリーニングを目的に作成されたものであり、得点による重症度分類は行わない。 |
\ | 質問内容 | 得点 | |
1 | お歳はいくつですか? | 0/1 | |
2 | 今日は何年の何月何日ですか?何曜日ですか? | 年 月 日 曜日 |
0/1 0/1 0/1 0/1 |
3 | 私たちが今いるところはどこですか? | 0〜2 |
|
4 | これから言う3つの言葉を言ってみて下さい。あとでまた聞きますのでよく覚えておいてください。 | 0/1 0/1 0/1 |
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5 | 100から7を順番に引いてください | (93) (86) |
0/1 0/1 |
6 | 私がこれから言う数字を逆から言って下さい。 | 2-8-6 9-2-5-3 |
0/1 0/1 |
7 | 先ほど覚えてもらった言葉をもう一度言ってみて下さい。 | a0〜2 b0〜2 c0〜2 |
|
8 | これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言って下さい。 | 0〜5 | |
9 | 知っている野菜の名前をできるだけ多く言って下さい。 | 0〜5 |
前項でも指摘したように、この長谷川式スケールは被験者の理解(協力)が得られなければ、実施する意味はあまりありません。
また、認知症だということを認めたくない被験者の中には、うまく取り繕って、病気でないことを装う人もいるので、テストをする際には、客観的に観察する技術や洞察力などが少なからず求められます。
そこで、一般の方が認知症の疑いがある患者に対して、この長谷川式スケールを実施する際、いったいどのような点に注意したらよいのか、その具体的な使い方(質問の仕方や採点方法)を下記にまとめておくので、少し参考にしてみてください。
設問1【年齢】 「あなたの年齢はいくつですか?」と問い、満年齢が正確に言えれば1点。2年までの誤差は正答とみなす。 設問2【日時の見当識】 「今日は何月何日ですか?」「何曜日ですか?」「今年は何年でしょう?」と尋ね、各正答に対してそれぞれ1点を与える(順不同に尋ねても可)。また、年については西暦でも正答とみなす。 設問3【場所の見当識】 「私たちが今いる場所はどこですか?」と問い、被験者が、現在いる場所がどこなのか自発的に答えられれば2点を与える(場所が本質的にとらえられていればよい)。病院名や施設名、住所などは正確に答えられなくてもよい。もし正答が出てこない場合には、5秒程度おいて「ここは家ですか?病院ですか?施設ですか?」のようにヒントを出しながら問いかけ、正しく選択できれば1点を与える。 設問4【3つの言葉の記銘】 「これから言う3つの言葉を言ってみて下さい。また後で聞きますのでよく覚えておいて下さい」と教示する。3つの言葉は「桜・猫・電車」あるいは「梅・犬・自動車」のどちらか一方を使い、ゆっくり切って発音し、被験者にも後に続いて繰り返し発音してもらい、一つの言葉に対して1点を与える。もし、3回以上繰り返しても覚えられない場合はそこで打ち切り、次の設問へ進む。 設問5【計算問題】 「100引く7はいくつですか?」と問い、答えが出たら「それからまた7を引くといくつですか?」と問う。正答に対して各1点を与えるが、最初の計算に失敗したら打ち切り、次の設問に進む。なお、最初の引き算を終え引き続いて質問をする際「93から7を引くといくつですか?」というように93≠ニいう数字を言ってはいけない。 設問6【数字の逆唱】 「私がこれから言う数字を逆から言って下さい」と教示した後、ゆっくりと間隔をおいて数字を発音する。数字は正答に対して各1点を与えるが、最初の逆唱に失敗したらそこで打ち切り、次の設問へ進む。 設問7【3つの言葉の遅延再生】 「先ほど(設問4)覚えてもらった言葉をもう一度言ってみて下さい」と教示する。3つの言葉のうち自発的に答えられたものには2点を与え、答えられなかった言葉に対しては、少し考える時間を与えた後、それぞれ別々にヒント(例:ひとつは(植物 or 動物 or 乗り物)でしたね)を出す。ただし、「植物と動物がありましたね」といったように立て続けにヒントは出さない。ヒントによって答えられたものには1点を与える。 設問8【5つの物品記銘】 「これからあなたに5つの品物をお見せします。それを隠しますから、今ここに何があったかを答えて下さい。順番はどうでも構いません」と教示する。物品は特に指定はないが相互に無関係なもの(例:時計、鍵、タバコ、ペン、硬貨…など)を用意し、一つずつゆっくりと名前を言いながら並べていく。各正答に対してそれぞれ1点を与える。 設問9【言葉の流暢性】 「あなたが知っている野菜の名前をできるだけたくさん言って下さい」と教示し、答えてもらった野菜の名前を用紙に記入する。5個までは採点せず、6個以上に1点ずつ加算(6個…1点 / 7個…2点 / 8個…3点 / 9個…4点 / 10個…5点)。野菜の名前は重複しても構わないが、重複分は採点しない。また、途中で言葉に詰まり、約10秒待っても出てこない場合はそこで打ち切る。 |