日本では、これまで車椅子とは、移動目的の《運搬用具》としか思っていなかった人が多かったためか、椅子に座る利用者の使い心地≠竍快適さ≠ノついては二の次というところがありました。
ところが欧米では、車椅子は単なる移動手段のための道具ではなく、義肢や装具などと同じように、使用者ひとりひとりの身体に合わせた調整が大事である!ということも常に念頭に置いています。
つまり、欧米では車椅子利用者の視点に立ったものの見方を大切にしているということです。
車椅子のシーティング技術もそのひとつですが、車椅子シーティングとは、簡単に説明すると「個々の使用者(目的)に合わせた正しい姿勢で椅子に座ってもらう」ことを意味します。
そして、正しい姿勢で座ることは、結果的に次に挙げるような問題点や利用者の負担を軽減することにもつながるため、近年、日本国内でも、車椅子シーティングに対する関心が高まっているようです。
先に説明したとおり、車椅子シーティングとは、車椅子を単なる運搬用具として使うのではなく、使用者に快適に座ってもらうという点にも配慮した技術のひとつですが、車椅子シーティングには、主に次のような役割があります。
2次障害(褥瘡、痛み、疲れ、脱臼など)予防 介助の軽減 長時間の座の維持による寝たきり防止 走行性・移動能力の向上 |
特に姿勢を気にすることなく、長期間(時間)車椅子を使っていることによって起こりうる深刻な問題点が2次障害≠ナす。
ひと口に2次障害といっても、様々な障害が考えられますが、比較的多く見られるトラブルのひとつが褥瘡(じょくそう)≠ニ呼ばれる症状です。
褥瘡(じょくそう)ってなに? 褥瘡とは、いわゆる床ずれ≠フことで、少し専門的な用語を用いると「同一部位の長時間の圧迫が原因で生じる血行障害による局所の虚血性壊死」。【参考文献:『これであなたも車いす介助のプロに!』より】つまり、長時間の圧迫により血の巡りが悪くなり、その結果、発赤(赤斑)や水泡(水ぶくれ)となったり、最悪の場合は皮膚組織が壊死してしまうような状態にまで進行してしまう皮膚疾患。 |
そのため、車椅子シーティングを行う際には、姿勢の安定と褥瘡予防のための市販の専用クッションやバックレストなどを使用するのが一般的です。
しかし、車椅子専用のクッションにも様々な製品があり、製品ごとに素材や特性が異なってくるので、必ず複数の商品を実際に使ってみて(少なくとも1時間程度)使い心地や快適さを比べながら自分に合ったものを選ぶことが大切です。
※ クッションの試用は各地域で実施している福祉用具の展示会や専門の介護用具ショップなどでも行われているはずなので、これらのイベントやショップに足を運んでみるのもよいかもしれません。
正しい姿勢で座るということは、車椅子に座った際、骨盤が正しい状態で保持されるということでもあります。
そこで、車椅子の肘置きや足台の高さを調節するとともに、専用のクッションやバックレストなどを使用しながらシーティングを行うことになりますが、それなりの知識や技術が必要とされるので、どのように調節したらよいのかよくわからないという方は、一度、シーティングに詳しい専門家(理学療法士や作業療法士など)に相談してみましょう。
座位に問題 なし |
動作を容易にし、座り心地を維持するクッションの選択を行う。厚さ5cm程度が目安。 |
座位に問題 あり |
クッションは減圧機能をもつ厚さ10cm程度のものを使用する。姿勢を変えることが困難である場合、褥瘡発生部位は予測できるので、その部位に合わせた減圧具を使用する。背に対しても、クッションを入れるようにする。足部も注意。 |
座位姿勢が とれない |
必要であれば、全身に減圧用クッションを敷き、その厚さは10cm程度とする。 |
※ 参考資料 … 編著:木之瀬隆『これであなたも車いす介助のプロに!』より
ちなみに、車椅子シーティングに関する書籍も、最近、増えてきましたが、シーティングの知識がない初心者でも、比較的、読みやすいと個人的に感じた書籍が、木之瀬隆さんの『これであなたも車いす介助のプロに!』です。
イラストなども豊富で、車椅子シーティングの基本的な考え方からはじまり、車椅子生活における問題点や専用クッションの選び方…などなど、車椅子に関する基礎知識が優しく解説されているので、書店になどに立ち寄った際は、一度、手にとってみてはいかがでしょうか。