アルミがアルツハイマー病の原因・・・
巷ではそんな話も耳にするため、アルミを使った調理器具やアルミ缶飲料を口にすることに不安を抱いている方もいますが、アルミが人体に与える影響について、しっかりと説明できる方は意外と少ないようです。
つまり、アルミはなんとなく脳によくないといった漠然とした知識だけで危険視しているわけです。
そこで、なぜアルミがアルツハイマー病の原因ではないかと疑われはじめるようになったのか、まずはそのあたりの経緯について理解を深めておくことが大切です。
アルミがアルツハイマー病の原因ではないかと疑われるようになった事件や研究発表は過去にいくつかありますが、その中でも特に主だった記事としては次のようなものが挙げられます。
1972年 | アルミニウムが残留していた透析液やアルミニウム製剤を投与された人工透析患者の脳内にアルミが蓄積し、アルツハイマー病と似たような症状が起きたとされる米国の事件。 |
1988年 | 飲み水として利用される水道給水に誤って大量の凝集剤が投入されたため、その汚染された水(超高濃度のアルミを含んでいる)を摂取した住民にアルツハイマー病と結び付くような症状をもつ患者が現れた英国の事件。 |
1989年 | 英国のアルツハイマー病患者が多い地域の飲料水から高濃度のアルミニウムが検出された事件。 |
1992年 | 体内のアルミニウムは正常な脳にも取り込まれ蓄積し、脳の神経細胞に障害を起こすということを日本国内のプロジェクトチーム(東大や東北大)が証明。 |
いずれの記事も実際に起こった事件であるという点においては間違いなく、一定量を超える高濃度のアルミが脳内に蓄積されてしまうと、神経性毒症によるある種の記憶障害等が起こる場合があるということは解っています。
しかし、実のところ、アルミがアルツハイマー病の元凶であるとする明確な科学的根拠はいまだ発表されていません。
にもかかわらず、アルミがアルツハイマー病の原因だと信じて疑わない人が多いのは、特にこの手の事件が日本国内で注目された1990年代にこぞって取り上げたマスメディア(新聞、テレビ、雑誌など)の報道の仕方に問題があったのではないかと思われます。
つまり、いまだ仮説段階でありながら、さも人体に危険であるかのような誤解を招く報道が少なからず行われていたわけです。
前項でも説明したとおり、高濃度のアルミが体内に蓄積してしまうと、アルミニウムの毒性による脳を含めた人体への影響が懸念されますが、JECFA【下記:豆知識参考】によれば、人体に対するアルミの最大許容摂取量(アルミニウムが健康に影響を及ぼすことのない上限と考える量)は体重1kgあたり2mg/週≠ニ設定されています。
※注:以前の最大許容摂取量は、7mg/週と設定されていましたが、従来よりも少ない投与量で影響を及ぼすという報告があったため、平成23年の第74回会合において、2mg/週に変更されました。
つまり、体重50kgの人であれば、1日あたり約14mgという計算です。
ちなみに、最新の政府調査(平成23〜24年度)によると、人が食物や飲料水として摂取するアルミニウム量は、すべての年代層で、最大許容摂取量を下回っているというデータがあるので、アルミニウム含有量の多い食物を日頃から積極的に摂取しているならまだしも、普通の生活を続けている限り、必要以上に心配することはないと考えられています。
※ また、体内に取り込まれたアルミの約99%は吸収されずに排泄(便/尿)されてしまいます。ただし、腎機能等に障害があり、アルミが体内に蓄積されやすいような体質の方は注意を要することもあるようです。
1日当りの食品 | 4.5mg | 岡山大調べ (1981年) |
飲料水 | 0.1mg/l以下(目標値) | 東京都水道局 |
0.04〜0.36mg/l(1日2L) | 愛知県衛生課 | |
調理器具 | 1.68mg | 厚生科学研究費 研究報告書 (平成9年度) |
飲料缶 | 0.02mg | |
アルミ箔製品 | 0.01mg |
したがって、アルミ製品の調理器具を使った料理やアルミ缶飲料を口にしたからといって、そのこと自体が原因でアルツハイマー病になると主張する専門家は、近年ではほとんどいなくなりました。
しかし、アルミニウムが人体に対してどのような影響を与えるのか、いまだはっきりと解明されているわけではないので、完全にシロではない(つまり、主原因とはならなくても、アルツハイマー病等の発症原因に何かしらの影響を及ぼしている可能性は否定できない…)と言うことも理解しておくべきなのかもしれません。
1955年にFAOとWHOが設立した下部組織で、合同食品添加物専門家委員会(Joint Expert Committee on Food Additives)の略のことです。
JECFAでは食品添加物や毒性学者等の専門化が集まり、参加国が提出した資料を基に、安全性の試験結果評価や規格の設定を行った上で公表しています。