若年性アルツハイマーは、65歳以上の高齢者がかかるアルツハイマー病よりも病気の進行が早く、初期症状が現れてから重症化するまでの期間が短い傾向がみられます。
そのため、診断の結果、医師から「あなたは若年性アルツハイマーです」と宣告された場合のショックは計り知れないものがありますが、早期発見・早期治療に徹することで、病気の進行を遅らせることはある程度可能だと考えられてもいるようです。
したがって、若年性アルツハイマーは、初期症状を見逃さず、重症化しないうちに早め早めに専門医のアドバイスを受けることが重要になってきますがうつ病≠竍せん妄≠ニいった他の病気にかかっている患者にみられる言動や行為と、若年性アルツハイマーにかかっていると思われる患者がとる初期症状とでは似ている点も多く、ケースによっては詳しい検査(PET検査:比較的、初期のアルツハイマー病を把握するするのに適した検査だと考えられている)をしてみないことには医師でも判断できない…ということを、まずは理解しておいてください。
もう10年近く前になりますが、かつて話題になった映画(『明日の記憶』『私の頭の中の消しゴム』)や、ドラマ(『Pure Soul 〜君が僕を忘れても〜』)の影響もあって、近年、アルツハイマー病は高齢者だけに起こる病気ではないということを初めて知った方も多いかと思われますが、あまり知識がないために、若年性アルツハイマーという病気の怖さだけがひとり歩きしてしまっているような節も見てとれます。
そこで、若年性アルツハイマーとは、いったいどのような病気なのか・・・初期症状を含め、まずは基本的な知識を押えておくことが大切です。
若年≠ニいう言葉が付いているせいか、若年性アルツハイマー病は、10〜20代の方にとっても「人ごとじゃない!」と、ちょっとした物忘れでも強く不安がる若者は少なからずいるようです。
確かに10〜20代でアルツハイマー病の症状が確認された事例が全くないわけではありませんが、このようなケースは稀で、病名に付いている若年≠ニは、主に40〜50代の中高年層を対象としています。
つまり、10〜30代でアルツハイマー病の初期症状と似たような行為・言動がみられる場合は、アルツハイマー病とは関係のない(ストレスや睡眠不足など)ことが影響しているケースも多く、改善の余地があると考えられていることを、まずは理解しておきましょう。
アルツハイマー病の原因はいまだ完全には解明されていませんが、若年性アルツハイマーも高齢者アルツハイマーも、脳の神経細胞が死滅し委縮してしまうことによって起こる知的能力の低下です。
しかし、脳の委縮(人の脳は20〜30歳をピークに減少に転じます)は加齢とともに誰にでも起こりうる老化現象のひとつであって、何も特別なことではありません。
では、アルツハイマー病患者の脳内ではいったい何が起こっているのか…その点が、とても気になるところですが、実は脳内で分泌されているβアミロイドと呼ばれるたんぱく質の一種が、アルツハイマー病患者の脳では分解されず、脳内に蓄積(正常な脳内ではすぐに分解される)してしまっていることが深くかかわっているとする説があります。
少し専門的な話になってしまいますが、このβアミロイドが脳内に蓄積されると、老人斑(βアミロイドが主成分と考えられており、神経細胞と神経細胞の間にできるシミのようなもの)の沈着が起こり、脳内の神経細胞が死滅していくアポトーシスと呼ばれる状態を作り出しているというわけです。
しかし、ここで注目すべきは、若年性アルツハイマー病は高齢者アルツハイマーとは異なり、どちらかというと遺伝性の強い脳疾患であるという点です。
したがって、初期症状の兆候が見え隠れし、かつ、親族間に若年性アルツハイマー病患者がいたような場合には、遺伝による脳疾患の恐れも考えられるので、早めに一度専門医に診てもらうことをおススメします。
頭痛、めまいなどの回数が増えた… 他人への配慮がなくなり、周囲の人から自己中心的になったと言われることが増えた… 人の名前が思い出せないことが増えた… 脈略のない文章を書いてしまうことがある… 通い慣れた道のはずなのに迷ってしまうことがある… 住所や日付けを書き間違えることが増えた… 重要だと思っていたはずの約束さえ忘れる回数が増えた… 仕事の能率が下がったり、台所での作業も要領が悪くなった… 最近、ムキになったり怒りっぽくなった気がする… (女性)閉経を迎えている… ※ チェック項目に該当するからと言って必ずしもアルツハイマーにかかっていると断定することはできません。 |
若年性アルツハイマーは、病気の進行速度が早い傾向にあるため、できるだけ早期発見・早期治療を試みたいものですが、冒頭でも触れたように、患者にみられる初期症状はうつ病≠はじめ、似たような症状をみせる病気が複数あります。
これらの病気に共通(悪性の脳腫瘍等、一部は除く)している点は、アルツハイマ―病とは違い、医師の適切な処置を受けることで症状の改善が見られる可能性が高いことです。
そこで、若年性アルツハイマー病と似た初期症状をみせる疾患とは、いったいどのような病気があるのか・・・
その代表的な病名と特徴について、下記にいくつか挙げておくので、気になる方は参考にしてみてください。
うつ病 | 特に理由もないのに、物事に対して悲観的になったり不安感が襲ってくるため、心身ともに不安定な状態が続く症状。その原因は、いまだ正確には解明されていないが、比較的、働き盛りの世代に発病者が多いことから、ストレスの繰り返しが深くかかわっている(ただし、ストレス耐性は個人差が大きい)のではないかと指摘する専門家は多い。ただし、アルツハイマー病とは異なり、適切な治療(抗うつ薬の投与など)を受けることで回復する可能性は高い病気でもある。 |
■午前中に調子が悪くなる傾向がある ・イライラして怒りっぽくなる ・睡眠パターンが変化する ・寝覚めが悪い ・検査で異常はないにも関わらず、執拗に体調不良を訴える …など |
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せん妄 | 身体は起きているのに脳だけが眠っているような状態をいい、意識混濁による幻覚や錯覚が見られる。比較的、高齢者に起こりやすい意識障害の一種。その言動や行為がアルツハイマー病の症状と似ているケースも多いことから間違えやすい。その原因は多岐にわたり特定するのは難しく、生活環境の変化による心理的ストレスをはじめ、薬の副作用などが影響していることもあると指摘する専門家もいる。 |
■症状が夜間に出やすい ・自分のいる場所や時間がわからない ・あるはずのないものが見える …など |
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正常圧水頭症 | 脳内を流れている脳脊髄液が、何らかの異常により増え過ぎてしまったために、流れが悪くなったり、脳室が拡大してしまう脳疾患の一種。アルツハイマー病と同様、物忘れがひどくなったり、仕事をはじめ、身の回りの作業能率の低下を招く。 |
■歩行障害や排尿障害 ・小刻みに歩く/片足立ちが困難 ・失禁 …など |
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脳腫瘍 | 脳内に発現した腫瘍の場所によっては、おう吐や頭痛などの自覚症状があまり出ないこともあり、認知症と同じような初期症状に襲われることがある。腫瘍の状態(悪性か?良性か?)や場所にもよるが、適切な治療により症状が回復することも…。 |
■腫瘍のできた場所によって異なる ・頭痛や吐き気 …など |
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脳血管性認知症 | 脳出血や脳梗塞などによる脳への損傷や病気が原因で神経細胞が死んでしまうため、記憶力低下や言語障害等、アルツハイマー病と似た症状が現れることがある。ただし、この種の脳疾患は、脳の損傷部位によって症状が異なってくるため、専門医に診せれば病名を特定することができる場合が多い。 |
■腫瘍の発現部位によって症状は異なる ・歩行障害 ・言語障害(ろれつが回らない)…など |
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ヤコブ病 | 異常な量のプリオン蛋白が脳内に溜まった結果、脳神経細胞の機能が阻害され、アルツハイマー病と似たような症状がみられることもある。クロイツフェルト・ヤコブ病は、非常に速い速度で脳が委縮するのが特徴で、短期間(概ね1年以内)で死に至るケースが多い。 |
・痙攣 ・手足の震え …など |