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塩化アルミニウムとアルツハイマーtop
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多汗症の悩みを解消する方法のひとつに〝塩化アルミニウム〟を使った治療法があります。

これは塩化アルミニウムの収斂作用(タンパク質を変成させて組織や血管を縮める働き)によるものですが、汗の気になる部位(脇など)に、この薬品を塗りこむことで物理的に汗を止めることができるわけです。

したがって、制汗剤として販売されている『オドレミン』や『テノール液』などは、多汗症そのものを根本的に治すわけではなく、あくまで一時的に汗を抑えることを目的とした対処法なので、使用を止めると効果はなくなってしまいますが、それでも手軽で費用も安価なことから、塩化アルミニウムの作用を利用した多汗症治療は病院でも広く処方されているようです。

ところが、この塩化アルミニウムには、アルツハイマー病を引き起こす恐れがあるとして、多汗症治療とはいえ、皮膚に直接、塗りつけるような行為は危険なのではないかといった話も少なからず耳にします。

そこで、塩化アルミニウムは、本当にアルツハイマー病を引き起こすような人体に有害な物質なのかどうか・・・少し整理してまとめてみましょう。




多汗症治療とアルツハイマー病との相関関係

アルミの有害性そもそも、塩化アルミニウムアルツハイマー病との関わりが疑われ始めたのは、過去に起こった次のような事件が背景にあります。

つまり、要はアルツハイマー病患者の脳内に高濃度のアルミが蓄積しているとして、アルミニウムがアルツハイマー病の発病と何らかの関係があるのではないかと疑われたわけです。

しかし、私たち人間は日常生活において、知らず知らずのうちにアルミニウムをいろいろな形で摂取していますが、全ての方がアルツハイマー病にかかっているわけではありません。
過去に起こった事件や研究発表
1972年 アルミニウムが残留していた透析液やアルミニウム製剤を投与された人工透析患者の脳内にアルミが蓄積し、アルツハイマー病と似たような症状が起きたとされる米国の事件。
1988年 飲み水として利用される水道給水に誤って大量の凝集剤が投入されたため、その汚染された水(超高濃度のアルミを含んでいる)を摂取した住民にアルツハイマー病と結び付くような症状をもつ患者が現れた英国の事件。
1989年 英国のアルツハイマー病患者が多い地域の飲料水から高濃度のアルミニウムが検出された事件。
1992年 体内のアルミニウムは正常な脳にも取り込まれ蓄積し、脳の神経細胞に障害を起こすということを日本国内のプロジェクトチーム(東大や東北大)が証明。
また、JECFA(FAOとWHOが設立した下部組織)によると、人体に対するアルミニウムの最大許容摂取量(アルミが健康に影響を及ぼすことのない上限と考える量)は〝体重1kgあたり2mg/週〟と設定されていることから、体重50kgの人の最大許容摂取量は、1日あたり概ね14mgという計算になります。
アルミニウム摂取量:参考資料
1日当りの食品 4.5mg 岡山大調べ
(1981年)
飲料水 0.1mg/l以下(目標値) 東京都水道局
0.04~0.36mg/l(1日2Lとして) 愛知県衛生課
調理器具 1.68mg 厚生科学研究費研究報告書
(平成9年度)
飲料缶 0.02mg
アルミ箔製品 0.01mg
最新の政府調査(平成23~24年度)によると、人が食物や飲料水として摂取するアルミニウム量は、すべての年代層で、最大許容摂取量を下回るというデータがあるので、日常的に摂取しているアルミニウム量に関しては、過剰に反応する必要はないと考えられます。

さらに、一時期注目を集めた1972年の透析患者に起こったアルミニウム中毒事件に関しては、透析患者の血液にアルミニウムが直接流れ込んでしまったり、患者の腎臓機能障害によりアルミニウムがうまく排泄されなかったなどの特別な理由があったために生じた〝透析脳症〟という病気であって、アルツハイマー病とは異なる病気であることが判明しています。

したがって、塩化アルミニウムを主成分とした制汗剤を、直接皮膚の上から塗りこむ行為がアルツハイマー病を招く非常に危険な行為だとする説には疑問点も多く、そのようなリスクがあるという科学的証明も、いまだなされてはいません。

もちろん、アルツハイマー病のメカニズムがはっきりと解明されたわけではないので、塩化アルミニウムの人体に対する有害性が全否定されるものではありませんが、市販薬の『オドレミン』や『テノール液』に含まれる塩化アルミニウム水溶液の一種が、アルツハイマー病を引き起こす直接の原因になるとは考えにくいので、制汗剤を使用することで、その悩みが少しでも軽減し前向きな人生が送られようになるのであれば、一度、医師に相談した上で、塩化アルミニウムを使った治療法を検討してみる価値はあるのかもしれません。

※ 以前はアルミニウムの最大許容摂取量は7mg/週となっていましたが、近年、従来よりも少ない投与量で影響を及ぼすという報告があったため、現在は2mg/週に変更されています。